「サッカーに真摯であり続ける」J2昇格を目指す福島ユナイテッドFC、辻上副社長の信念

ブルー

written by 根岸春香

福島県を本拠地とするJリーグクラブチーム「福島ユナイテッドFC」。クラブ名のユナイテッド(UNITED)は「結ぶ、団結、統一」の意味に由来し、チームの選手やスタッフ、そしてサポーターがひとつになり、サッカーを通じて福島の発展・活性化のために活動しているクラブチームです。

今回は、2022年2月に福島ユナイテッドFCの取締役副社長に就任された辻上裕章さんに取材させていただきました。20年以上にわたり、プロサッカークラブや日本サッカー協会の業務に携わってきた辻上さんが考える、「勝つ可能性を上げる」ためにやるべきこととは。その胸中を伺いました。

※日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の1シーズンは春(2月下旬)に開幕し、冬(12月初旬)に閉幕する。現在は1部(J1)〜3部(J3)までの3部構成されており、シーズン終わりの順位によって、J1からJ2に降格するクラブや、J3からJ2に昇格するクラブなどが決定する。

インタビュー:辻上 裕章(つじかみ ひろあき)さん

インタビュー:辻上 裕章(つじかみ ひろあき)さん

1976年生まれ。
ベガルタ仙台でのプロサッカー選手時代を経て、柏レイソルのフロント業務に携わった後、共同通信社に出向しロンドン支局でサッカーを中心とする運動部の記者として勤務。帰国後は日本サッカー協会の広報として日本代表チームを支えた。2013年からベガルタ仙台で強化・育成、運営・広報を歴任し2021年には統括部長を務めていた。2022年2月、福島ユナイテッドFCの副社長に就任し現在に至る。
妻は元サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)の澤穂希さん。

魅力と可能性を秘めたクラブで残りのサッカー人生を

 

ーーー福島ユナイテッドFCの副社長に就任された経緯を教えてください。

 

2021年の年末に福島ユナイテッドFCの鈴木社長からお電話をいただいたことがきっかけです。「本腰を入れてJ3からJ2に昇格を狙いたいので、クラブの力になっていただきたい」と直球で言葉を投げかけられました。

すでに私が前クラブを退職していたこともあり、複数のチームからオファーをいただいている状況でした。しかしながら、鈴木社長から「クラブの環境を見てもらった上で、福島で話をしたい」という連絡をいただき、直接お会いしてお話を伺った後に再検討し、最終的にオファーをお受けすることにいたしました。
 

ーーー複数のチームからオファーをいただいている中で「福島ユナイテッドFC」を選ばれたのは、どういった理由ですか?

 

私がこれまで培った知識や経験の全てを活用することで、魅力と可能性を秘めたクラブづくり、目標のJ2昇格の力になれるのではないかと思いました。長くない残りのサッカー人生で、福島のみなさんに喜んでいただけるような、街づくりや地域創造の一助となる仕事ができることにも魅力を感じました。
 

ーーー就任されて4ヶ月程経ち、感じたことや気づいたことを伺えますか。

 

福島ユナイテッドFCの社員やスタッフのみなさんの、業務に対する勤勉さや真面目さに感銘を受けました。無口で決して派手ではないですが、それぞれの思いを持って一生懸命に業務する姿勢は福島県民の特徴だと感じています。

現状、J1やJ2と比較すると環境が整備されていないところがあるので、目標に向けてそれぞれの立場に関係なく全員で協力して作り上げているんですね。そんなことをしていると、20代のころに戻って純粋にサッカーと向き合っていたときの感覚がよみがえってくるのです。みんなで議論して、作業しては汗をかいて。「やっぱり僕はサッカーが好きだな」と再認識する機会となり、一生懸命な仲間と一つになって、J2昇格を目標や夢ではなく現実のものとして叶えたいと強く思いました。

一方で、新しくクラブとしてチャレンジする事業や業務において、なぜ当該業務が必要で、どのような意味を持つのか、本質や効果をより理解することが大事であると思っています。個人的にJ1やJ2の水準を保った上で、発言や指導することを心がけています。プロの世界に関わる上で意識のレベル向上が課題としてあります。

また、新しい事業や業務を取り入れることは間違いではなく、取り入れる際に福島ユナイテッドFC流に変えていく、独自のスパイスをかける必要があると思っています。私は自分の中でクラブを理解しながら、その微調整をしているんです。

 

”父”は、仕事でも家庭でも№2として支える人

 

ーーー副社長という立場でどのような仕事をされているのか想像しづらいのですが、お子さんにはどのように説明されているのですか?

 

娘は、母(はは)、父(ちち)って呼ぶんですよ。私たちの仕事について聞いてみたら、「母はなでしこジャパン、父の仕事は分からない」って言ってました(笑)

ちょうど先日、幼稚園の父の日参観に向けて「パパはどんなお仕事をしていますか?」と、家で話す機会があって。妻が「父はサッカー選手とかサッカーの人たちを支えるお仕事をしてるんだよ」っていう話をしたので、私は「家でもそうだよ」と付け加えました。娘は「そうなんだ、父は支える人なんだ」って理解したみたいです。
仕事と一緒で、家庭でも№2なんですよ(笑)
 

ーーーなんだか微笑ましい会話ですね(笑) 実際にはどのような業務をされていらっしゃるんでしょうか。

 

勝つ可能性を上げるために何をすべきかヒントを提供したり、現在進行中の業務に対して少し変化をつけさせてもらったり、新しい事業に取り組む意味やKGIを見据えて推進するべきであることを実務を通じて説明させていただいています。

福島ユナイテッドFCのみなさんは、私が話した内容を素直に受け入れて、一生懸命に実行してくれるので本当にうれしい。だからこそ、チャレンジが成果につながっているんだと思います。実質やってるのは私だけではなくて、各部門の担当者一人ひとりなんです。

私は、鈴木社長や選手を支える立場でもあり、また上下関係なくクラブ一丸となってみんなと並列のポジションで業務を遂行していく立場だと思っています。「№2の№1」になりたいんですよ。

 

ーーー辻上さんが仕事をする上で大切にしている言葉はありますか?

 

座右の名は『堂堂』で、一般的に「堂々」と二文字目に繰り返す文字を使うけど、私は『堂堂』と書くと決めているんです。

本質的な仕事をきっちりする、サッカーに対して真摯であり続けるということを、今まで一緒に仕事させていただいた日本を代表する監督や選手たちなど、本当にたくさんの方々から教わりました。嘘をついたり誤魔化したり、人の足を引っ張ったりといったことは絶対にやりたくない。ズルをして勝っても心から喜べないだろうなと思うんです。サッカーで言うところの「フェアプレー」ですね。

常に真っ向勝負で自分の力を信じて、成功すればみんなで喜ぶし、もし負けたり失敗してもそれが自分の力量だと責任も認めること。正々堂々とありたいなと考えています。これが私を支えるベースだと思ってますし、これが無くなったら自分でいられなくなるとも思っています。妻には、白黒はっきりしてグレーがない人とよく言われますね。
 

シーズン最後の成功に向けて

 

ーーー今後の目標を教えてください。

 

一番の目標は、鈴木社長が宣言している"クラブのJ2昇格"ですね。それを実現するために社長や監督、選手を支え、メンバーが各々の業務を通じて成長することでJ2にふさわしいクラブとして成立させたいというのが目標です。

 

ーーーその目標のために何から取り組むべきだとお考えですか。

 

最優先の課題は、スポンサーやチケット収入の向上だと考えています。財務的な環境が良くなることでクラブ全体の環境の向上につなげ、勝つ可能性を上げていきたい。さらに、サポーターのみなさんが増えれば、厳しい環境下でも選手の背中を押してくれる瞬間があるんじゃないか、って。

では誰が集客をやるのか、担当者だけではなくクラブ全体でやっていかなければいけない。チケット販売のためには、プロモーション活動をしたり、さまざまな話題をメディア各社にリリース配信して拡散したりと広報業務が必要になる。そのための原資となる予算が必要になってくるんです。

今年は昨年1年間のスポンサー収入を3か月で達成しました。4月以降は新規スポンサーの獲得に力を入れると同時に、以前お付き合いがあった企業にも、J2を目指して日々前進していることや農業部などの地方創造における活動をプレゼンしており、改めてご協賛いただける企業も増えてきています。

クラブで一つの目的を目指すときに、全部門の全ての人たちのパフォーマンスが連動しつながっていて、一人ひとりが自分の業務を通じてチームが勝つ可能性を上げられると信じています。

「勝つ可能性を上げる仕事ができているか」と、よく私自身自問自答しているんですが、何を目的として仕事をしているのか、その本質を理解して、それぞれが当事者意識を持って取り組む必要があると思うんです。仕事を与えられた分だけやるのか、与えられた以上のより良いものを生み出そうとするのか、これまでにないチャレンジをして一歩二歩と踏み込んでいくのか、この3段階が一つの形になれば、必ず結果が出てくると思っています。

 

ーーー最後に、辻上さんにとって「仕事が楽しい」と感じる瞬間とは?

 

今の仕事は立場や年齢関係なく、若手からの質問や意見があって刺激的で楽しいですよ。私も周囲から試されています(笑)

これまでの経験を交えながら「苦しみを苦しみで終わらすことなく、先を見据えて必ず成果として表れるから踏ん張ってやりましょう」ということを伝えながら、ポジティブに業務に取り組んでいます。

私自身の成果というよりは、一緒に議論してチャレンジしたメンバーが、それぞれの担当する業務で成功したときに達成感を感じますね。そこに喜びを感じられるのが、やっぱりNo.2タイプなんだと思うんです。

たくさんの人たちと業務を通じて成功を共有できるのが喜びだし、シーズン最後の大きな成功に向かって、小さな成功を積み重ねてるときが一番楽しいですね!
 

 

福島ユナイテッドFCのホームページはこちら


 

この記事をシェアしよう!

  • hatena