創業75周年。当たり前だと思っていたことこそ、企業の魅力だった
written by 田野百萌佳
郡山市で、あらゆる生産現場やオフィス環境といった建物内での生産性・効率性を向上させるべくFA・OAシステムを提供する株式会社ニノテック。2021年で創業75周年を迎えたそうです。75年間、進化する技術と向き合い続けるのはそう簡単なことではないはず。ニノテックが時代とともに変容しながら歩み続けているのにはどんなわけがあるのか、代表の樽川啓さんにお話を伺いました。
樽川啓さん
株式会社ニノテック代表取締役。他社でのサラリーマン経験を経て、父が代表を務めるニノテックに入社。2005年、取締役副社長に就任。2006年、二人代表制を敷き、樽川次男社長(現会長)とともに代表取締役となる。2008年、代表取締役に就任。
「建物があればお客さま」この事業の難しさと面白さ
ーーーまず、ニノテックってどんな会社なのか教えてください!
樽川社長(以下、敬称略):事業を説明する時に「建物があればお客さま」という言い方をしています。具体的には3つの事業に分かれていて、1つ目が各種コントロール機器、電子デバイス、空気圧機器を扱う制御事業。2つ目が工場内の生産システムや上・下水処理場の設備を扱うプラント計装事業。3つ目が電話などの通信機器や火災報知器、非常放送機器といった防災設備を扱う情報・通信事業。どれも機器の販売、設置工事、保守点検までやっているのがうちの特徴。そのように一気通貫で行っている会社って珍しいんです。
ーーー私たちが建物の中で生活するうえで、無意識のうちに様々な設備にお世話になっていて、その設備の設置から維持にわたる全てのことをお任せできる数少ない会社のひとつがニノテックさんなのですね。
ーーー昨年、創業から75周年を迎えられたとのことですが、デジタルとは程遠い時代から、取り扱うシステムや技術の変遷に沿っていくというのは、相当な対応力を伴ってきたのではないでしょうか?
樽川:はい。取り扱う機器が身近なものであればあるほど、進歩は大きいですからね。例えば、プロジェクターなんか少し前はOHPっていう大きな機器だったのが、今ではかなりコンパクトなものが主流になりました。防犯カメラだってプライバシーの問題で昔はそんなになかったのに、今では当たり前のように付けますよね。75年前は工場も全て手作業だったところにロボットが導入されて。現場のエンジニアさんにとっては、仕入れ先のメーカーさんから毎回仕様を教わって覚えていくというのは大変ですよね。一方で常に新しいものに触れ続けるというのがこの仕事の面白いところでもあります。
ーーー難しさも面白さも大きいということですね。
「誠実」と「信頼」がモットー。だけど、昔は尖っていた
ーーー樽川さんご自身が、仕事をする上で大事にしていることって何かありますか?
樽川:「誠実」と「信頼」。誠実であることで、周りの方からの信頼を得る。
地場でやっているのでやはりお客さんの評判は重要なんですよね。場所を変えることはできません。なので、誠実な仕事をして、目の前のお客さまからの信頼を得ることはやはり大切。
あと、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉も大切にしています。偉くなればなるほど、謙虚でありたい。というより、そもそも偉いって言葉自体が好きじゃない。偉い人になりたくなくて、謙虚であり続けることが大事だと思って仕事をしています。
ーーー素敵です!昔から大切にしていらっしゃったんですか?
樽川:いえ、私もニノテックに入社したころは尖っていたんです。若気の至りといいますか。
ーーーそうなんですね!樽川さんがどのように変化されたのか気になります!
ーーーまず、ニノテックさんに入社した理由はどんなものだったのですか?
樽川:実は今会長を勤めている先代の社長が私の父なんです。別に同族経営ではなく、父も一般での入社から社長になったのですが、当時の社内で後継者を見つけるのがなかなか大変だったそうで。私ももともとは別の会社で働いていたのですが、父に声をかけてもらって。「社長になれるかなれないか、おまえ次第だ」と言われたのですが、社長になれるチャンスがあるならば、と入社しました。
ーーーいつか社長になりたいという夢は前々から持っていらっしゃったのですか?
樽川:全くございませんでした。実際に社長をしている父を見て育ちましたが、私が幼いころから仕事ばかりだし、会社でもいつもおっかない顔をしていたので自分もそうなりたいと思ったことはありませんでした。ただ、「一国一城の主」って、なかなかできることではないじゃないですか。そこは尊敬していて。自分の子どもからそういう風に見られることができる自分がいてもいいのかな、という思いが次第に湧いてきたんです。だって、社長になれるチャンスなんて、そうないじゃないですか。
ーーー確かに。ニノテックさんに入社されて、代表を務めるまでにはどんな経緯があったのでしょうか?
樽川:最初はある分野の係長から入らせていただいて、その後、営業所長、副部長を務めました。副部長になって、会社の色んな課題も見えるようになって。外から来ると、どうしてもできてないところに目がいくじゃないですか。現場にいらっしゃる方も年齢が上の方のほうが多かったのですが、話を理解してもらえないと思ってる自分がいて。生意気にも「このままだとまずい。当時の取締役の方よりも上にいかないと変わらない。」なんていう若気の至りの考えで、自分から社長に「取締役にしてくれ」と言ってしまいました。それで、副社長を経て、本当に社長になってしまった。なった!って言ったほうがいいんですかね。(笑)
ーーー若気の至り、ってそういうことだったんですね!やはり、自信があったのでしょうか?
樽川:どうなんだろう。ただ、すごく肩に力が入っていたと思います。いずれ社長になることを踏まえて、自分がなんとかしなくちゃいけないという思いで入社していましたし。なので、父にもよく反発しました。周りから見ると親子喧嘩に見えていたそうなのですが、実際は父が私の意見を受けとめてくれていましたね。実際に社長になってみると、会社が積み重ねてきたものから学ぶことのほうが多いと気づきました。
ーーー何かきっかけはありましたか?
樽川:会社を継ぐとなったときに、ある先輩社長から『後継者の鉄則』という本を紹介されて。その本で「守破離」という言葉を知って、会社を変えていくには、まず会社が続いてきた理由に目を向けることが大切だと学んだんです。
私が社長になったのが2008年で、その時には創業から60年が経っていたんですね。よくよく考えると、これだけ長く会社が続くっていうことは、何か理由があるわけじゃないですか。その長く続いてる理由を、ちゃんと認識しないとまずいよな、と考えるようになりました。それで、急激に会社を変えていくのではなく、まず今社内でできていることに目を向けようという意識に変わりました。
ーーー「会社を変えてやる!」という思いから、「良いところを受け継いでいこう」という風に方向転換したんですね。
樽川:はい。ある時「他人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来だ。」という言葉を聞いて。変えたいと思うだけではなくて、自分の視点を違うところに向けないとだめなんですよね。、、、ただ、あまりにもこの言葉に感銘を受けて、色んな人に喋って、仕事でもそういう風に方向転換したんですけど、家に帰ったらどれだけ奥さんに怒られても変わらない自分がいた、という小噺も挟んでおきましょうか。(笑)
ーーーそのオチ、大好きです(笑)
「当たり前」を探って見つけた、ニノテックの魅力
ーーー詳しく伺いたいところですが、ちょっと我慢してお話し戻しますね、、それで、実際に気づいたニノテックさんの良いところってどんなところだったのでしょうか?
樽川:これが、会社のよさを見つけるのってかなり難しかったんですよね。なぜなら、自分たちにとっては当たり前にできてしまっていることだから。あるお客様の一言から会社のよさを発見することができたんです。そして現場の方が、お客さまに対してこつこつと誠実に対応してきたことが、うちの強みだとわかったんです。
現場だけでなく営業アシスタントの方を見てみても、お客さまのお問合せに対して、自分で調べて対応するっていうことができていて。私も気になってきて、「何でそうやっているの?」と聞いてみたのですが、みんな「先輩方がやってたのを自分たちもやってます」って言うんです。
ーーー誰が何を言うわけでもなく、知らず知らずのうちに受け継がれてきていたのですね。
樽川:長い時間かけて、現場でそういう文化が醸成されて来たみたいですね。
でもそれに気づいたことで、会社の強みを自分たちで理解することで、その理由を作ってくださっている社員の方達にももっと働く中で喜びを感じてもらわなければ、と強く思うようになりました。
ーーーそのために、大切にしていることはありますか?
樽川:それから、私の方からも社員のみなさんに「自分たちの仕事の強みに気付いてくださいね」と常々言って、自分たちの強みに目を向けてもらうように意識しています。
社員のみなさんが積み重ねてきたことって、具体的にいうと「迅速」「最適」「確実」という3つなんじゃないかと整理しました。それは強みだから、これからも強みとして大事にしていきましょうという意味で伝え続けています。
要は、販売でもメンテナンスでも、「最適なものをクイックにお客さまに提供しましょう」ということですね。
細かいところで言うと、納期の対応に対して、「いつまでに」というのを必ず伝えましょう、というルールを作っていたり。
「時間」というエネルギーを無駄にしないことは特に大切にしています。もちろんシステムに不具合を出してしまったりといった失敗もたくさん経験していますが、時代の流れに沿って来られているのは、その3つをずっと大切にしているからかな、と思います。
ーーー納期や目の前のことに誠実にクイックに対応することが、長い目で見ても時代の変遷に対応して会社が長く存続し続けられることにつながっているんですね!
ーーーその中で、社員の方々に助けられたな!と樽川さんご自身が感じたエピソードって何かありますか?
樽川:私が社長になってすぐ、リーマン・ショックが訪れたんです。その時、今までで一番経営がきつかったのですが、みんな明るく仕事してくれて。もちろん自分も不安にさせないようにはしていましたが、すごくありがたかったな、という記憶が残っています。
それは会社が動いている時だけではなく、止むを得ず経営を止めなくてはならない状況でもそうです。東日本大震災の影響や、近隣でガス爆発事故があって一定期間経営を止めるという判断をした時があったんです。そんな決断をすることってあまりないし、側からみると「お客さんもいるのに、そんなことしていいのか」とおっしゃる方もいると思います。そんな状況でも、社員の方が受け入れてくれてお客様への対応をスムーズにしてくれたんです。
ーーー未曾有の事態においても、社員の方々の日頃からの対応が発揮されるんですね。それは会社の考え方が社員の方にスムーズに伝わって、みんなで同じ方向をむいているからこそなのかな、と感じます。
働く「時間」を幸せにするのは、ちょっとしたことに幸せや感謝の気持ちを持てるかどうか
ーーーでは、これからニノテックをさらにどんな会社にしていきたいとお考えですか?
樽川:やっぱり、目の前のお客様のお困り事に答えること。新規事業も考えたくなるんですけど、急にはぽっとはできないなと思っていて。ヒントは、お客さまからの言葉や付き合いしてるメーカーさんにあるんですよね。
そこから今の事業を始めたのがうちの創業者なんですよ。お客さまからのヒントをいただいて、やってみたらっていうのを素直にやられて。いや、素直かどうかは分かりませんけど。(笑)それで始めたっていうルーツがあるんです。
ある人から、「不のつく日本語を探せ」っていう言葉を聞いたことがあって。不平、不満、不都合、不便、、、そういう言葉を探して、それを解消するのが事業なんですよね。っていうことを言われてて。そういう言葉をお客さまから引き出して、我々のできる範囲で事業を広げられればと思っています。
ーーーそのために、今後どんな人にニノテックに来て欲しいという理想の像はお持ちですか?
樽川:これはかなり理想ですけど、自己肯定感の高い方や、ちょっとしたことに幸せや感謝の気持ちを持てる方。自己肯定感が高いほうが、自信を持って仕事ができますよね。お客さまからありがとうと言われたり、当たり前のことにも幸せや感謝ができる集団でありたいです。せっかく仕事するなら、うれしさを感じられるほうがいいじゃないですか。あとは、素直に話が聞ける人。そういう人とは話をしていてお互い楽しいですしね。
ーーーまさに、「自分たちの仕事の強みに気付いてほしい」という思いとつながっていますね。
ーーーでは、樽川さんにとって「働く」とはどういうことでしょうか?
樽川:物心両面で人生を豊かにすること。働く時間って、人生の中のどれぐらいを占めるんだろうと考えた時に、結構な時間を使うじゃないですか。その時間ってすごい貴重な時間だなと思っていて。そこが自分にとっていいものであってほしいです。生活面の安定をするために働いてる部分もありますけど、仕事っていろんな人と出会えますし、いろんなことが吸収できる場でもあるので。
ーーーここでも、「時間」はキーワードなんですね。
ーーーでは、最後にこれから社会に出る若い人たちに向けてメッセージをお願いします。
樽川:素直に物事に取り組んでほしいです。素直な人ほど成長が早いので、だまされたと思って、そこをこつこつやるっていうのが大事なのかなって思いますね。それと、素直って言うのは何でも飲み込めということではなくて、分からないことあったらどんどん聞いて欲しい。わからないことをわからないと言うのも大事です。私も分からないことは、お客さまだろうが、よく聞くようにしています。仕事する上では、それが大事なのかな、と思いますね。
取材後記
ご自身のご経験から、大切にしている価値観を紡ぎながらお話ししてくださった樽川社長。「時間」を大切に、日々コツコツと最適なものをクイックに提供するということ。また、謙虚でありながら、自分たちの強みに自覚を持ち、続けていくこと。自分の外にあるものを変えようとするのではなく、自分の魅力に気づいて伸ばしていくこと。これらが販売から点検まで一気通貫しながら時代の流れに対応していらっしゃるニノテックさんならではの魅力の理由なのだと感じるとともに、私たちが日々生きていく上でも大変学びになるお考えだと感じました。樽川さん、貴重なお時間をありがとうございました!
株式会社ニノテックHP